カッピング(1)へ
SCAAのカッピング基準(2015/12/16改定版)について独断と偏見で解説しています。
(1)の道具編に続き今回は材料編です。「材料ってなんだ」と思ったかもしれませんが、要は『コーヒー豆』と『水(お湯)』の話です。 では、早速本題に入ります。
1 コーヒー豆
1)焙煎はカッピングを実施する前、8〜24時間以内に行うこと
2)焙煎度は以下の手順で測定し、決められた数値の範囲内であること
・焙煎した後、30分〜4時間の範囲内に測定する
・規定の粗さに豆を挽いて測定する
・Agtron Gourmet Scaleで測った値が63±1であること
3)焙煎は8分以上12分以内で行うこと
4)焙煎したら直ちに空冷すること(水冷しないこと)
5)室温まで冷却したら、密閉容器や非透過性バックに密閉し(豆のままで)保管すること
6)保管は冷暗所で行うこと(冷蔵や冷凍はしない)
7)豆の挽き目は#20のふるいを使用して70〜75%が落ちる粒度であること
8)豆を挽くのはカッピングの直前に行うこと
1)
焙煎直後の豆はガス(炭酸ガス)の発生が多く、品質が安定しないそうです。web情報ですが、焙煎屋さんでも焙煎後すぐには販売せず、1〜3日休ませてから豆を販売するようです。焙煎豆は3日ほどで品質が安定し1週間後くらいまでベストの状態が維持され、そこから徐々に劣化していき美味しく飲める限度は3〜4週間だそうです。もちろん、保管方法にもよりますし、夏冬の(気温の)違いもありますので絶対的な情報ではありません。
上記の情報が正しければ、焙煎後24〜48時間以内にカッピングするほうが安定して正確にテスト出来そうですが、そうすると2日前から準備しなければならなくなるので、あまりにも煩雑です。実際のオペレーションを考えて上限値(24時間)と下限値(8時間)が決められたのだと思います。
2)
同じ豆でも浅煎りと深煎りでは味が大きく変わるので、焙煎度を一定にしないと正しい評価が出来ません。SCAAではいくつかのメーカー(
Agtron、
ColorTrack、
Probat、
Javalytics、
Lightells)の分光光度計を使って豆の色を測るよう指定しています。簡単に言うと、どのくらい黒いかで焙煎度を判別しています。
測定のタイミングも指定さていますが、この理由はわかりません。にわか知識と推測ですが、焙煎によって豆の色が濃くなるのは『メイラード反応』『カラメル化反応』『炭化』の3つが主な原因だと思います。カラメル化反応と炭化は常温では進まないと思いますし、メイラード反応は常温でも進むようですが非常に遅いとの事なので、短時間で色が大きく変化するとは思えません。なんで測定のタイミングを指定してるんでしょうね。
焙煎度は豆のままではなく、挽いてから測定するルールです。次の3)とも関係しますが、表面はこんがり焼けていても中は生焼けということもありうるので、挽いて全体を均一化させた状態で測定する必要があります。
※この段階で挽く豆はあくまでも焙煎度測定用の少量だけです。カッピング用の豆は直前まで豆のままで保存します。
ここでは日本でも比較的名前が知られているAgtron(アグトロン)の測定値だけを書きました。アメリカではAgtronがデファクトスタンダードみたいです。と、ここまではいいとして問題はAgtronの63ってどのくらいの焙煎度なんだろうということです。netの画像ではミディアムローストくらいに見えるんですけど正直わかりません。
蛇足ですがAgtronの測定器について、もうちょっと書いておきます。アグトロンには"Gourmet Scale"と"Commercial Scale"という2つの測定尺度があるそうなんですが、コーヒー業界では"Gourmet Scale"が一般的に利用されているようです。なので、コーヒーに関してアグトロン63と書かれていたらそれは"Gourmet Scale"の63ということです。なお、値は0から100の数値で表され、数値が小さいほど濃い色(深煎り)になります。
SCAA公認のLightells社が出している焙煎度計CM-100が、18万円弱で日本でも買えるようです(測定尺度はAgtron Gourmet Scaleと同じです)。SCAA公認の日本で買える製品としては最安だと思います。興味のある人は"Lightells CM-100"で検索しましょう。
SCAAのルールでは焙煎度は少し時間を置いてから測定することになっているので、リアルタイムで確認したい場合は困ります。もちろん職人さんは経験と勘で焙煎するんでしょうが、指標となるカラーチャートがSCAAの
webショップで販売されています。8枚セットで3万円もしますが、100万円のアグトロンよりはましなので、アグトロンの測定値を知りたい場合には役立ちます。
また、日本でも上記のカラーチャートを忠実に再現したと称する製品が販売されており、こちらは4〜500円で買えます。興味があれば『ロースティングカラーチャート』で検索して下さい。
この商品を見ていて気づいたんですが、アグトロン63に一番近い65
(Light Medium)には『1ハゼと2ハゼの間』と書いてますね。ということは、アグトロン63はハイロースト(中浅煎り)くらいなんでしょうね。
なお、この商品にはアグトロン値が書いていないようなのでおまけで換算表をつけておきます。
| ロースト |
アグトロン値 |
| Very Light |
95 |
| Light |
85 |
| Moderately Light |
75 |
| Light Medium |
65 |
| Medium |
55 |
| Moderately Dark |
45 |
| Dark |
35 |
| Very Dark |
25 |
どんどん本題からずれていきますが、L値についても少しだけ触れておきます。L値は色の明るさ(明度)を表す指標で0〜100の数値で表され、値が小さいほど暗い色となります(黒は0、白は100)。またアグトロンと違い万国共通の一般的な指標で、測定は色差計で行います。必ずしも一般的では無いようですが、日本ではL値を焙煎の目安に使っている焙煎士もいるようです。
L値について調べていたらものすごく面白そうな本を見つけてしまいました。
吉儀英記 『香料入門:香りを学びプロを目指すための養成講座』 フレグランスジャーナル社 2002
コーヒーの香りについてとても詳細に書かれています。P116〜132まで読むとコーヒーの香りに関しては専門家になれるレベルです。でもこのリンク貼っちゃって良いのか悩みますね。
えい! 貼っちゃいました。
同書のP118 『表3-24 焙煎度とL値』 を引用させてもらいます。
| 焙煎度 |
L値 |
標準L値 |
| Light |
30.0 < |
30.2 |
| Cinnamon |
27.1〜30.0 |
27.0 |
| Medium |
24.1〜27.0 |
24.2 |
| High |
21.1〜24.0 |
21.5 |
| City |
18.1〜21.0 |
18.5 |
| Full City |
16.1〜18.0 |
16.8 |
| French |
15.1〜16.0 |
15.5 |
| Italian |
15.0 < |
14.2 |
※そのまま載せましたが、間違いと思われる箇所が2つあります(未確認)。
※Cinnamonの標準L値 27.0(誤) → 27.3(正)
※ItalianのL値 15.0 <(誤) → < 15.0(正)
ついでに、L値に関連するサイトのリンクを貼っておきます。
[1]と
[2]
3)
食べ物を加熱する場合、2つのやり方があります。強火で短時間加熱するか、弱火で長時間加熱するかです。強火で長時間加熱すると焦げてしまうし、弱火で長時間だと十分に火がとおらないので、火力と加熱時間はある程度まで連動します。つまり、焙煎度が決められている状態で焙煎時間(加熱時間)も指定されるということは、結果的に火力も指定されるということになります。
また、焙煎時間は香りや味にも影響を与えるはずです。同じ焙煎度でも、短時間しか加熱していないのか長時間加熱を続けたのかによって、香りや味の強さや質が変化するはずです。一般論ですが、香り成分は気化するので加熱時間が長いほど香りが逃げます。ただコーヒーの香りは加熱により生成される部分(香ばしさなど)が大きいので、その意味では加熱時間を長くすると香りが強くなりそうな気もします(正確には時間ではなく『加えた熱量(=火力×時間)』でしょうか)。
話が変な方に行きましたが、焙煎度と焙煎時間を指定することで、同じ焙煎条件に揃えることができるのでうまい方法だと思います。
4)
焙煎直後の豆は200℃くらいの高温になっているので、焙煎機から出したら直ぐに広げて冷まさないと自分自身の熱でどんどん焙煎が進んでしまいます。だから、ちゃんと冷ましなさいよということですね。
もう一つ、冷却方法は空冷限定ということです。最初「豆の冷却に水冷なんてあるのか?」と思ったんですが、調べてみると水冷式冷却器というのがちゃんとあるらしいです。ただし、当然のことながらある程度大規模な設備が必要になります。
ここからは私の推測(そもそもこの文章はほとんど推測ですけど)ですが、 空冷だとゆっくり冷える(徐冷)のに対し、水冷だと急速に冷える(急冷)ので、風味などに違いが出てくるのかもしれません。だとすればテスト条件を一定にするため、どちらかに限定するのは自然な流れです。 でも水冷に統一すると大規模な設備が必要なので、カッピングのできる場所が限定されてしまいます。そこで、空冷に統一したのではないでしょうか。
5)
上では省略して書きましたが、原文はもっと詳しく書いてます。『20℃まで冷えたら、他の豆や異物の混入を防ぐためと、空気との接触を最小限にする目的で、気密容器か非透過性バックに入れて保管すること。』
そのままなので解説は必要ありませんが、 空気との接触を最小限にするのは酸化を避けるためと香りが飛ぶのを防ぐためでしょうね。あと紫外線も劣化の原因になるので、光を通さない容器がベストでしょう。
6)
『冷暗所』は食品の保管でよく聞きますが、漠然としていて案外よくわからない言葉だと思いませんか。暗所は光の当たらない暗い場所なのですぐわかります。でも冷所はどのくらいの温度なんでしょう。
冷暗所と言われると、冷蔵庫に入れる方もいるようですが、冷蔵庫に入れて欲しい場合は通常『冷蔵』と書いています。広義では冷蔵も含むのでしょうが、狭義では冷蔵にならない程度に冷たい(涼しい)温度と考えればいいと思います。参考になる数値が日本薬局方(医薬品に関する規定)に記載されています。
・室温:1〜30℃
・常温:15〜25℃
・冷所:1〜15℃
・冷蔵:2〜8℃
もうひとつ、JASや食品衛生法では10℃以下が冷蔵となっています。ということで文字通りに考えると11〜15℃が冷所になります。でも、通常そこまで厳密に考えることもなく、常温と冷蔵を含めた涼しい場所で良いと思います。
無駄話が長くなりましたが、実はカッコ書きの方が重要です。あえて冷蔵や冷凍の禁止を明記しているからです。ではなぜ、明記してまで禁止したんでしょうか。3つほど考えてみました。
a. 管理が煩雑になる。
挽いた直後の香りもチェック項目の一つですから、きちんと香りがわかるよう常温に戻さなければならないはずです。そのためには一度冷蔵庫に入れたものをカッピングの2〜3時間前に冷蔵庫から出す必要があり作業が煩雑になります。
b. 結露の心配がある。
コーヒー劣化の四大原因は、酸化、紫外線、湿気、高温と言われます。冷蔵庫に入れると極めて湿度が低いか室温が低くない限り、出した時に間違いなく結露します。湿度が高いだけでも劣化するのに、結露で直接水滴が触れるのは品質保持の観点からみて最悪です。
c. 焙煎後の豆の安定に悪影響がでる。
SCAA基準では豆の状態を安定させるために、焙煎後わざわざ8時間休ませています(上記1)を参照)。しかし低温貯蔵すると活性が低下するので、豆の安定化が遅れ想定された状態まで豆の安定が進まない可能性があります。
まあ、SCAAが理由を公表していないので、なんとも言えません。暇つぶしの頭の体操でした。
7)
上では省略しましたが原文は『通常ペーパードリップで使う挽き目よりわずかに粗く挽き、#20のふるいで70〜75%が下に落ちる粒度であること』となっています。#20のふるいは、目のサイズ(目開き)が0.85mmなので、要は70〜75%が0.85mm以下の粒度になるよう豆を挽きなさいということです。
また、通常ペーパードリップでは中挽きにするので、わずかに粗い挽き目は中粗挽きということになります。中粗挽きはフレンチプレスに推奨される挽き目で、カッピングもフレンチプレスも浸漬法の抽出なので、理にかなっています。
面白いのは、粉の粗さは上限が設定されているのに、下限は設定されていないことです。 やろうと思えは、『#20(0.85mm)で70〜75%が落ち、#40(0.425mm)では20%以下しか落ちない粒度』というような指定もできるのに、あえてそうしていません。
中浅煎り(上記2)を参照)で微粉が出づらいので単純化のために省略したのか、あるいはそもそも微粉などは気にしていないのか。後者だとすると、微粉を気にする人の多い日本とは対照的ですね。大雑把と考える人もいるかもしれませんが、雑味やアクもコーヒーの味のうちと考えているのかもしれません。
限度問題ではありますが、私は雑味やアクも素材の味のうちと考えるタイプです。このへんは、好みや考え方の違いでしょうが、豆の品質をチェックするという観点からは雑味も含めてチェックするのが正解なのかもしれません。
なお、SCAA基準に則ったカッピングをするのであれば、使用するミル(グラインダー)で規定の粗さに豆を挽けるか事前にテストしておく必要があります。そのためには、#20のふるいも用意しなければなりません。ふるいは結構高い(5000円くらい)し、他に使いみちもないので正直購入を躊躇します。
8)
上で豆の挽き目を説明したので、勘違いして事前に豆を挽いちゃわないよう注意喚起として書きました。準備段階で豆を挽くのは、あくまでも焙煎度のテスト用としてだけです。せいぜい20gも挽けば十分で、それ以外の豆はカッピングの直前まで豆のままで保存して下さい。
とんでもない長文になり、とても水までは書けないので、別のページに分けます。
カッピング(3)へ
あと一応念のため、免責事項です。
しつこいようですが私はただの素人です。質問されても答えられませんし、そもそも間違って理解している可能性もあります。ここの記述が正しい保証もありません。
また、基本的に自分用の備忘録として書いているので、(不快に思う方もいるかもしれませんが)正しい内容がわかった時点で内容を断りなく書き換えることもありえます。